本研究は、血管リモデリングの成立過程における、活性酸素種(ROS)の産生とレドックス制御の破綻による酸化ストレス亢進の本質的役割を明らかにし、治療介入の新たな標的因子の確立を目的としたものである。特にヒトの初期動脈硬化病変に類似する血管リモデリングの病態として、カフ傷害血管モデルを用い、障害血管病変局所における酸化ストレスの亢進と炎症性変化の関与について新たな知見を得た。この血管病変において、ストレスタンパクであるHSP72がリモデリング抑制に重要な役割を果たすことを見出し、これがNADPH oxydaseの活性抑制による酸化ストレスの軽減とケモカインであるMCP-1の発現抑制を介して、monocyte-macrophageの炎症性細胞浸潤を抑制することを明らかにした(Circulation 2004;109:1763-68)。HSP72の発現は温浴により促進・維持される事を合わせて示し、「湯治の動脈硬化抑制機序」を解明したものでもある。さらに、血管リモデリングの主役であるangiotensin IIがGSH枯渇のレドックス制御破綻状態においていかなる影響をもたらすかを検討し、GSH/GSSGの低下を背景に、新生内膜でのアポトーシスの促進と中膜平滑筋の増殖抑制を介してリモデリングが逆説的に抑制されることを明らかにした(Circulation 110:III-120)。これらの病変局所においてDNA塩基損傷と塩基除去修復(base excision repair : BER)機構の活性増強が確認されたことから、細胞内レドックス制御の破綻は、血管リモデリングの過程において、酸化的DNA塩基損傷の修復をBER機構の亢進によって達成しており、血管リモデリングへの抑制的作用が示唆された。さらに、培養血管平滑筋細胞へのApe1 cDNAの導入により、細胞の酸化ストレス耐性の増強が確認され、酸化的DNA塩基損傷の修復機構の促進による血管平滑筋細胞の保護的作用、さらには動脈硬化病変の抑制という新たな治療戦略の可能性が示唆された。
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