研究概要 |
G-CSFによる心筋梗塞後の心機能改善のメカニズムとして、骨髄から動員された骨髄細胞から心筋細胞が再生されたこと以外に、心筋梗塞部の治癒過程促進が重要な役割を演じていることが明らかとなった。G-CSF治療群と生食群について、梗塞後48時間、7日、14日、3ヵ月における経時的な梗塞心筋組織の組織学的変化について検討した結果、梗塞48時間の時点では、survived area, infarct area (necrotic area)ともに両群間で差はなかったが、梗塞1週目ではG-CSF群は生食群に比してinfarct area (granulation area + necrotic area)が有意に小であり、necrotic area、granulation areaもともに有意に小であった。梗塞14日目では、G-CSF群では生食群に比較してinfarct area (granulation area)は有意に小であり、survived areaは有意に大であった。梗塞3ヵ月目にても、G-CSF群では生食群に比較してinfarct area (scar area)は有意に小であり、survived areaは有意に大であった。梗塞領域のfibrosisをSirius-redにて染色して面積を計算したところ、梗塞14日目、3ヶ月目においてG-CSF群では生食群に比較して有意に小であった。梗塞48時間の時点で、HE染色とRAM11染色をおこなった結果、G-CSF群では生食群に比較して、より高度の炎症細胞浸潤が非梗塞領域から梗塞領域を囲む感じで認められ、macrophageを示すRAM11染色で染色される細胞も梗塞48時間ではG-CSF群>生食群、7日目ではG-CSF群=生食群、14日目ではG-CSF群<生食群、3ヵ月目ではG-CSF群<生食群を示した。すなわち、梗塞48時間ではmacrophageが有意に増加するものの、その後はむしろG-CSF群では低下の方向に行くことが明らかとなった。梗塞1週間後の時点において、collagenaseであるMMP-1,gelatinaseであるMMP-9の発現が生食群に比較してG-CSF群において有意に大であった。以上の結果を考えると、G-CSF群では、急性期において好中球、macrophageによってnecrotic tissueを急速に吸収する結果、亜急性期、慢性期においてはむしろ炎症が低下していることが、macrophageの低下していることから推定される。また、一般に過剰なfibrosisが生じると収縮機能あるいは拡張機能の低下が生じ、左室リモデリングおよび心機能低下がもたらされることになるが、G-CSF群においては、梗塞1週目にMMP-1、MMP-9の発現亢進により過剰なfibrosisが抑制されることにより、瘢痕組織が減少し、左室リモデリングが改善されたと考えられる。
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