研究概要 |
心房細動は日常臨床で最も遭遇する頻度が高い持続性不整脈であるが、社会の高齢化に伴ってその発症頻度はますます増加傾向にあり、その有効は予防・治療法の確立が望まれている。近年、心房細動の発生・維持に肺静脈を起源とする異常興奮が重要な役割を果たすことが示され、アブレーション治療の面から注目を集めているが、肺静脈がどのような電気生理学的特性を基盤として異常興奮を生じるについてはこれまで十分に解明されていない。今年度の研究では、異常興奮の発生に関与するイオンチャネル発現が肺静脈と心房筋あるいは洞房結節でどのように異なるかについて、real-time PCR法によるmRNA定量と、免疫組織化学による蛋白分布の観察から検討した。その結果、ウサギおよびラット肺静脈では、洞房結節タイプの自動能の発現に重要な過分極活性化内向き電流チャネル(HCN1,HCN4)や深い膜電位から活性化されるL型Caチャネル(Cav1.3)の発現は心房筋よりもむしろ少ないが、静止電位の形成に重要な内向き整流Kチャネル(Kir2.1,Kir2.2)や興奮伝導を規定するNaチャネル(Nav1.5)の発現が心房筋よりも少ないことが明らかになった。更に、肺静脈ではCa調節蛋白であるryanodine receptorや筋小胞体Caポンプの発現も心房筋よりも少ないことが判明した。以上より、肺静脈では、興奮伝導遅延を基盤とするリエントリーや、細胞内Ca調節異常によるtriggered activityが生じやすい基質を有しており、これらを基盤として異常興奮が発生する可能性が示唆された。また、今年度の研究では、ウサギを用いて心房-肺静脈の圧負荷誘発心房細動モデルを作成し、活動電位光学マッピングによる興奮伝播や発動電位波形変化の解析にも着手した。
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