研究概要 |
胚性幹(ES)細胞由来心筋(ESCM)を用いた細胞移植が、徐脈性調律異常に対する新しい治療となりうるか-「バイオペースメーカ」の可能性について調べた。マウスNkx2.5-GFPノックインES細胞から分化した胚様体から、FACSを用いてESCMを分離した。外科的手技により作成した完全房室ブロックマウスの房室結節部にESCMを約20万個(in 20μL)注入し、長時間心電図記録を行ったところ、PBSのみを注入したSham群においては、全経過中房室ブロック(HR:168±10,n=5)が持続したが、ESCM移植群においては5例中4例で洞調律への変換が見られた(洞調律復帰群HR:683±50bpm,n=4)。また、10日後に心臓を摘出し、免疫組織染色によりgapジャンクション蛋白(connexin40,43)の発現を調べたところ、免疫組織染色では、Sham群においては、房室結節部に線維化が見られ、connexine40、connexine43発現の不連続性が見られたが、ESCM移植群においては房室結節領域にESCMが存在し、connexine40、connexine43を発現して周囲のhost心筋細胞との間にgap結合を形成していた。ESCMを完全房室ブロックマウスの房室結節部に移植すると房室伝導が回復した。これは、ESCM移植が徐脈性調律異常に対する新しい治療的アプローチとなる可能性を示唆する。一方、あらかじめ分化・誘導させていない未分化ES細胞を移植したマウスでは、心室壁内に内胚葉系・中胚葉系組織を含む奇形種を形成した。ESCMの移植は心臓伝導障害に対する新しい治療的アプローチとなる可能性が示唆されるが、細胞移植を安全に行うためには未分化ES細胞を移植細胞から完全に除去することが必要と考えられた。
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