弾性線維は、伸び縮みする臓器・組織(動脈・肺・皮膚など)に多くあって、その弾性を担っている。特に動脈では、脈圧を吸収するために弾性線維は弾性板という構造を作り重量の半分を占めている。老化によって動脈は硬くなり脈圧は増加するが、その多くは弾性線維の劣化・断裂が原因である。しかし弾性線維の形成機構も老化に伴う劣化や断裂の原因も理解が進んでいない。我々は発生期の動脈に多く発現するDANCE/fibulin-5というインテグリンリガンドをクローニングし、そのノックアウトマウスを作成したところ、全身の弾性線維がばらばらになっていることを見出した。このためDANCE遺伝子欠損マウスの表現型はヒトの老化に非常に類似しており、皮膚は弾性が無く垂れ下がり、肺気腫を来たし、動脈は蛇行して硬化していた。すなわち、DANCEは弾性線維形成に必須のタンパクである。本研究では、老化によっておこるDANCEの量的変化が弾性線維・弾性板の機能低下につながっているのではないかという仮説を検証するため、組織中のDANCEタンパク量の加齢による変化を調べることを目的とする。大動脈では、若いマウスと老齢マウスの間で約50%のDANCEタンパク量減少を認めた。しかし正常マウスでは老齢になっても大動脈の硬化はおこらないため、DANCEの減少と動脈中膜の硬化に関連があるかどうかは結論できなかった。動脈中膜の硬化をおこすモデルを探し、さらなるDANCEの変化がないかを調べる予定である。皮膚では興味深いことに老齢マウスにおいてDANCEタンパクの切断を認めた。ヒトの皮膚組織でも加齢によってDANCEタンパクの切断と減少がともにおこっていることを確認した。以上より、加齢によるDANCEの切断や減少が組織弾性の低下と相関する可能性が示唆された。
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