研究概要 |
膜近傍部における蛋白分解により、膜貫通型蛋白質の細胞外ドメインが不可逆的に切断される現象を、細胞外ドメインシェディングという。増殖因子、サイトカインの前駆体、受容体、接着分子など多岐にわたる膜蛋白質がシェディングされるという事実は、この翻訳後修飾が広範な膜蛋白質の生理活性を調節していることを意味している。また、細胞外ドメインシェディングは様々な刺激で誘導されることから、生体では厳密な制御下におかれ、重要な生理的役割を担うものと思われる。しかしながら、切断という動的現象の検出が容易ではないことから、生体における細胞外ドメインシェディングの機能はまだ充分明らかにされていない。当研究は、メタロプロテアーゼのM16ファミリーに属するNardilysin(NRDc)を、EGFファミリーに属するヘパリン結合性EGF様増殖因子(HB-EGF)の新規結合蛋白質として同定したことに端を発する。NRDcはEGFファミリーの中でHB-EGFのみに特異的に結合し、同因子による細胞遊走を増強した。しかし、そのメカニズムは不明であり、癌、心血管疾患におけるEGFファミリーとその受容体の関与からこの新しい分子間結合の生物学的意義の解明は重要と考えられた。HB-EGFは膜結合型の前駆体として生成され、細胞外ドメインシェディングを受けて分泌型となるが、このシェディングが、HB-EGFの生体内における機能を厳密に制御していることが明らかになってきている。 今回我々はNRDcがHB-EGFの膜貫通型前駆体とも結合すること、NRDcがHB-EGFのシェディングを強力に増強することを新たに見出した。更に、NRDcがTNF-α converting enzyme(TACE,ADAM17)と会合すること、TACEの活性を増強することも明らかになった。TACE-NRDc-HB-EGFをモデルとした、新しいシェディング誘導のメカニズムを解明し、シェディングをターゲットとした新たな疾患治療戦略の提唱を目指したい。
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