研究概要 |
我々は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子に、2つの遺伝子変異Glu298Asp、-786T→C変異を見出した。我々は、その後の研究において、-786T→C変異がeNOS遺伝子の転写を抑制しており、そのメカニズムとしてReplication Protein A1(RPA1)が-786Cアリルに結合することにより転写抑制因子として働いていることを見出した。 今回我々は、スタチンによる多面的効果のなかで、内皮保護効果のメカニズムを明らかにするために、フルバスタチン添加と非添加の培養ヒト冠動脈内皮細胞における遺伝子発現についてDNAチップを用いたマイクロアレイのシステムを用いて解析を行った。その結果、12,000遺伝子の中で、最もスタチンにより、遺伝子発現が低下した分子がRPA1であった。引きつづき、Real-Time PCRを用いた定量的評価をしたところ、実際にeNOS遺伝子発現はフルバスタチンによって有意に上昇し、RPA1遺伝子発現は有意に低下していた。 我々は、次にスタチン間の違いが存在すか否かを確認するためにシンバスタチンとフルバスタチンを比較した。その結果、両スタチン共にeNOS mRNAの安定性を亢進させることが明らかとなった。しかし、eNOS mRNAレベルはシンバスタチンに比べてフルバスタチンで有意に高い誘導性を示した。その理由として、レポーター遺伝子解析と遺伝子多型を有するHUVECsを用いた研究の結果、フルバスタチンのみがeNOS遺伝の転写活性を亢進させることが明らかとなった。さらに、シンバスタチンは有意なRPA1降下作用を有しておらず。フルバスタチンにおいてのみ-786T→C変異を有しているeNOS遺伝子のより高い、転写亢進作用を有していた。今後、これらの結果を踏まえたテーラーメード治療が確立されると考えられる。既に我々は、Statins for Coronary Artery Spasm Trial : SCASTを臨床研究として進めている。
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