【背景】近年の研究により拡張型心筋症の病因が遺伝子レベルで明らかにされており、細胞壁、サルコメア蛋白をはじめ核膜蛋白のラミンA/Cなどをコードする遺伝子の変異が拡張型心筋症の病因であることが判明してきている。我々は心伝導障害を伴う4家系においてラミンA/C遺伝子変異を見出したが、他の家系の病因を明らかにすることが必要である。核膜蛋白の一つであり心臓において強い発現が見られるUnc84b遺伝子の解析を施行した。 【目的】Unc84b遺伝子が新たな拡張型心筋症の病因遺伝子であるか否かを検討することである。 【方法】拡張型心筋症の発端者とその家族を対象とし病歴、診察所見、心電図、胸部レントゲン写真、心エコー図により臨床評価を行った。鹿児島大学医学部倫理委員会の承認の上で、十分な説明後に同意を得て遺伝子解析を行った。血液よりDNAを抽出し、Unc84b遺伝子のexon毎にPCRを行い、DHPLC装置にてスクリーニングし、異常の疑われた場合には直接塩基配列決定によりUnc84b遺伝子の異常の有無を解析した。 【結果】94名の拡張型心筋症の発端者を解析し、1家系においてUnc84b遺伝子にミスセンス変異を見出した。これはexon 8におけるA990T変異であり258番目のアミノ酸のAspertic acidがGlysineへ変異している(Asp258Gly変異)ものであった。この家系の罹患者2名に同一の変異を確認した。 【考察】Unc84b遺伝子は染色体22q13.1に位置し、cDNAは3767塩基からなる。その発現は心臓などに強く、核のmigrationやanchorageなどに関わるものと考えられており、lamin A/Cとの関連が示唆される。Unc84b遺伝子異常は94家系中1家系にのみ確認されその頻度は1%程度と少ないことが示唆された。 【結論】拡張型心筋症の一家系においてUnc84b遺伝子のexon 8にAsp258Gly変異を認めた。心臓において強い発現が見られるUnc84bの遺伝子変異が拡張型心筋症の病因のひとつであると考えられた。
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