本研究では、致死性不整脈である心室細動(以下VF)において、細胞内カルシウム(以下Ca)過負荷が心筋細胞間の電気的結合の低下をもたらし、これが心室内の興奮伝導が不均一化・無秩序化を生じVFの難治化に繋がるという仮説を立て、Ca蛍光色素fluo3を負荷したラット摘出灌流心における心筋細胞レベルのCaの動態を、リアルタイム共焦点顕微鏡を用いて心電図の記録下に解析した。その結果、 1.正常調律時には、心臓の興奮に伴って個々の心室筋細胞が時間空間的に均一なCaトランジェント(以下CaT)を発生したが、高頻度刺激により誘発された心室頻拍(以下VT)やVFでは、個々の細胞のCaTの振幅が心拍毎に変化(交代性Ca)するなど時間的空間的に不均一なCa動態を呈した。またCaTのほかに細胞内を波状に伝播するCa波も観察された。 2.さらにVF時のCa動態は、VT時のそれに比して不均一性が著しく、その持続(5〜10分)に伴って不均一性が増強した。 3.膜電位感受性色素di-4-ANEPPSによる心表面の電位マッピングでも不均一な興奮伝導が観察された。 4.VF時の心臓全体に直流通電すると、除細動され心室は静止したが、その直後に個々の細胞内でCa波が広範に発生した。 5.Ryanodineにより筋小胞体のCa放出を抑制すると、CaTの振幅低下とCa波の消失をもたらしたが、VFの停止効果は軽微であった。これに対しCa拮抗薬のverapamilを加えると、不均一なCa動態は均一化され、これに伴ってVFがVTまたは正常調律に復した。 以上の結果から、VFが持続すると細胞内Ca過負荷が生じるが、Ca過負荷自体の伝導障害への直接的な関与は少なく、主としてCa過負荷を介するイオンチャネル(例えばCaチャネル)機能の時間的空間的リモデリングによりVFの難治化が生じることが示唆された。
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