研究概要 |
慢性腎不全(CRF)では心血管イベントの独立した危険因子となっており,さらに微量アルブミン尿の段階でも冠血管疾患リスクを上昇させることが報告されているが,それに対する効果的な治療手段は明らかではない.本年度の研究では腎障害に伴う冠動脈内皮機能に対するATRA (all-transretinoic acid)の治療効果の検討を行った.成犬を用い,5/6腎摘によりCRFモデルを作成した.モデル作成4週間後に開胸し,左回旋枝に超音波プローブをかけて,その中枢側よりアセチルコリン(ACh)及びニトロプルシッド(SNP)を投与し,冠血流量を観察した.冠血管疾患の危険因子(ADMA (asymmetrical dimethylarginine)等)を測定し,冠循環異常への関与を検討した.冠動脈におけるeNOS, ADMAの分解酵素であるDDAH (dimethylarginine dimethylaminohydrolase)の発現をReal-time PCRにより検討した.更にCRF犬へのATRAの経口投与(CRFモデル作成後より4週間,2mg/kg/日投与)による冠動脈内皮機能への効果を検討した.CRF群では正常群に比し,糸球体濾過率は低値(21±3vs.68±4ml/min)を示した.血清ADMAは正常群と比し,CRF群で高値を示した.覚醒時平均血圧はCRF群において有意な変化を認めなかった.冠血流量増加の反応はACh投与時,正常群に比しCRF群では低下していたが,SNP投与時は両群間で有意差を認めなかった.冠動脈におけるeNOS mRNA・DDAH-I mRNAの発現はCRF群において低下傾向を,DDAH-II mRNAは有意な低下を認めた.ATRA投与により血圧の変動を認めなかったが,血清ADMAの低下,eNOS mRNAの発現増加が認められ,冠血管拡張反応の有意な改善が示された.
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