研究概要 |
背景:慢性腎障害において心血管疾患の発症率が高いということが報告されている.一酸化窒素(NO)の産生障害やasymmetric dimethylarginine (ADMA)は血管内皮機能障害を引き起こすが慢性腎障害における冠動脈内皮機能障害に対する直接的な証拠はない.方法・結果:成犬を1/2腎摘あるいは5/6腎摘により慢性腎障害モデルを作成した.モデル作成4週間後、部分腎摘により糸球体濾過率は低下し(コントロール;71±6ml/min,1/2腎摘;39±3ml/min,5/6腎摘;21±6ml/min),血漿ADMA値は上昇した(コントロール;2.6±0.2μmol/L,1/2腎摘;3.1±0.5μmol/L,5/6腎摘;3.5±0.3μmol/L).冠血流量で評価したアセチルコリンに対する冠血管拡張反応はコントロール群(83±17% increment)に比べて1/2腎摘群(34±8% increment),5/6腎摘(20±4% increment)で低下していた.CCD (charge-coupled device)カメラにより計測した(心外膜側)冠血管細動脈の血管径のアセチルコリンに対する変化も同様の結果が得られた.一方,ニトロプルシッドに対する血管拡張反応には3群間において有意差を認めなかった.アセチルコリンによる冠血流量の増加率は血漿ADMA値と相関したが(r^2=0.26),糸球体濾過率とは相関を示さなかった.1/2腎摘群および5/6腎摘群において血漿NOx (nitrite + nitrate)は低下し,ADMAの分解酵素であるdimethylarginine dimethylaminohydrolase (DDAH)-IIおよびendothelial NO synthase (eNOS)の冠動脈でのmRNA発現も低下を認めた.4週間のall-trans retinoic acid (atRA)投与によりeNOS発現は改善したが,DDAHには影響を認めなかった.結論:慢性腎障害の早期の段階で冠動脈の血管内皮機能は障害されていた.その原因として冠動脈におけるeNOS発現の低下およびDDAH-II発現低下に起因するADMAの上昇が示唆された.更にNO代謝を調整することが慢性腎障害における冠動脈内皮機能障害の予防に対する治療戦略になる可能性が考えられた.
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