動脈硬化の最終段階では粥腫の破裂に引き続き、冠動脈血栓が形成され、不安定狭心性や急性心筋梗塞などの致死的な急性冠症候群が発生する。生体内における血栓形成において、血小板P-セレクチンを介した血小板と白血球の接着機構が関与していることを、これまでに我々は報告してきたが、生体内血栓形成における血小板P-セレクチンの詳細な役割は不明であった。そこで我々は、動脈血栓形成における血小板P-セレクチンの役割を検討するために、P-セレクチン欠損マウスを用いて研究し、現在まで、以下のような研究成果が得られた。 1)P-セレクチン欠損マウスにおいて、P-セレクチンが真に欠損していることを、PCR法で確認した後に、P-セレクチン欠損マウスと野生型マウスを用いて、塩化鉄刺激によるマウス頚動脈血栓モデルを作製した。そして、血栓により閉塞されるまでの時間(血栓閉塞時間)を比較検討した。野生型マウス群と比較し、P-セレクチン欠損マウス群では血栓閉塞時間が延長し、さらにP-セレクチン欠損マウス群では血栓形成により動脈が閉塞された後にもしばしば自然再還流現象が観察されたが、野生型マウス群ではこのような現象は観察されなかった。 2)血小板凝集についての検討では、血小板凝集能はP-セレクチン欠損マウスと野生型マウス群では差は認めなかった。 3)血小板および白血球が存在する全血凝集についての検討では、全血凝集能は野生型マウス群に比較し、P-セレクチン欠損マウス群で抑制されていた。4)フローサイトメトリーを用いた全血凝集塊の検討では全血凝集塊の増大はP-セレクチン欠損マウス群では認められなかったが、野生型マウス群で増大した。 以上の結果から、血小板P-セレクチンは生体内において血小板-白血球凝集塊の増大と安定化に関与していることが示唆され、さらなる詳細な検討を行う予定である。
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