多くの増殖シグナルに関与する転写因子AP-1は、遺伝子・分子標的治療の強力な標的となる可能性がある。特に肺癌ではAP-1の主要成分であるcJunの発現が高頻度に上昇しており、AP-1は癌の合理的な分子標的となり得る。本研究では、強力なAP-1転写活性阻害能を示すc-jun dominant negative mutaht、TAM-67が肺癌細胞に対する効果を検討した。 肺非小細胞癌細胞株H520とH1299にc-jun dominant negative mutant、TAM67発現ベクターまたはコントロールベクターを遺伝子導入し、TAM67によるAP-1活性の抑制をルシフェラーゼ法で、細胞増殖に与える影響をコロニー形成法で検討した。両細胞株でTAM67の一過性導入によりAP-1活性が抑制された。コロニー形成数はH520では変化しなかったが、H1299では著明に減少した。 次に、TAM67またはGFP(コントロール)の発現がテトラサイクリンで誘導できるH1299娘細胞株(H1299-TAMまたはH1299-GFP)を作成した。ルシフェラーゼ法による検討で、TAM67の誘導によるAP-1活性の減少が確認された。MTT法による検討ではTAM67は増殖能を抑制した。フローサイトメトリー法による検討ではTAM67によってG1期からS期への移行が抑制された。ソフトアガロース法による検討ではTAM67によって足場非依存性増殖が著明に抑制された。これらの細胞をヌーマウスの皮下に移植し、テトラサイクリンを投与したところ、H1299-TAM細胞由来の腫瘍では、有意に皮下腫瘍形成が抑制された。これらの変化はH1299-GFP細胞では認めなかった。 以上より、少なくとも一部の肺癌細胞ではAP-1活性が増殖に必須であり、AP-1が肺癌の遺伝子・分子標的治療の標的になる可能性が示唆された。
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