研究概要 |
肺癌細胞が無限に増殖するためには、過剰な増殖シグナル、細胞の不死化、アポトーシス回避が不可欠である。また、増殖シグナル,不死化、アポトーシス回避はクロストークしている可能性があり、これらを同時に標的とする薬剤を開発すれば、正常細胞への影響を少なくし、肺癌の増殖に壊滅的な打撃を与えることが可能である。 我々は、これまで新規分子標的薬であるヒストン脱アセチル化酵素阻害薬が肺癌細胞でアポトーシス誘導とテロメラーゼ遺伝子発現抑制を示すことを報告してきた。本年度は、このヒストン脱アセチル化酵素阻害薬によるアポトーシス誘導の機序について、さらに検討をおこなった。その結果、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬はミトコンドリアを経由したカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導し、その調節因子であるbcl-xL、bcl-2、survivinの転写を抑制した。さらに、現在、注目されている遺伝子治療薬bcl-2アンチセンスの併用は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の抗腫瘍効果を増強した。BCL-2やBCL-xLは抗癌剤耐性に関わっていると考えられていることより、これらの転写を抑制できることは、耐性克服ができる可能性が示唆された(Mol Cancer Ther 2004)。また、survivinは腫瘍特異的物質としても重要であり、survivinの転写抑制は腫瘍選択的な治療の可能性を示唆した(第45回肺癌学会総会、2004年で発表)。 さらに、上皮増殖因子受容体阻害薬が肺癌のテロメラーゼ活性を抑制することを見出し、増殖シグナルと細胞不死化のクロストークが示唆された。また、上皮増殖因子受容体阻害薬が抗癌剤排出ポンプの乳癌耐性蛋白の機能を阻害することを明らかにするとともに(Cancer Res、出版中)、肺癌の分化の指標である粘液産生を抑制する可能性も発見した(Lung Cancer 出版中)。 このように、今回の研究では多くの新知見が得られ、全て英文論文として発表している。
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