研究概要 |
我々はこれまでヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬が肺小細胞癌のテロメラーゼ遺伝子発現を抑制すること、また、そのアポトーシス誘導がミトコンドリアを介したカスパーゼ依存性アポトーシスであることを見いだした。さらに、Bcl-2およびBcl-xLの遺伝子発現を抑制し抗腫瘍効果を増強することを証明した(Molecular Cancer Therapeutics, 2004)。腫瘍細胞に特異的に発現しているSurvivinに対してHDAC阻害薬が同様に遺伝子発現抑制効果があり、survivinの転写抑制には新規の蛋白合成が必要であることが判明した。これらの転写抑制は薬剤投与後6時間で認められるが、蛋白レベルの低下は24時間後であり、アポトーシスの直接的な誘因というよりも増強因子であった。HDAC阻害薬は肺小細胞癌の不死化とアポトーシス回避の抑制効果を有し、肺小細胞癌の有望な分子標的薬の可能性が示唆された(AACRミニシンポジウム発表)。 一方、肺非小細胞癌では上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害薬が治療薬として使用されている。EGFR阻害薬は細胞増殖抑制効果とともにテロメラーゼ活性の抑制があり、細胞増殖因子と細胞不死化のクロストークが示唆された。EGFR阻害薬のテロメラーゼ活性阻害作用はE2F-1の転写抑制作用を伴っていることを見いだした(Anticancer Research, 2006)。また、EGFR阻害薬が腺癌での奏効率が高いことより、粘液産隼への効果を検討したところ、細胞増殖抑制効果とは別に粘液産生抑制効果を認め、AKTおよびMAPKシグナル伝達系の両者が関わっていた(Lung Cancer, 2005)。さらに、薬剤排出ポンプへの影響を検討したところ、EGFR阻害薬はBCRP/ABCC2やP糖蛋白の機能を阻害しアポトーシス回避を抑制する作用が判明した(CancerResearch, 2005 ; Lung Cancer, 2005)。さらに、肺非小細胞癌細胞株においてBCRP/ABCG2の発現レベルがその基質であるTopoisomerase-I阻害薬の耐性度とEGFR阻害薬による耐性克服度と強い相関があることを見いだした(Cancer Chemother Phrmacol, 2006)。また、EGFR阻害薬による進行肺癌長期生存例の検討より、女性、腺癌、非喫煙者、EGFR変異とともに、肺内多発転移、耐性後の再投与効果例が3年以上の長期生存と関わっている可能性を見いだした(Lung Cancer, 2006)
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