肺癌はがん死因の主要なの一つである。しかし、既存の抗癌薬による治療では限界があり、新しい薬剤の導入が望まれている。肺癌細胞が増殖するためには、増殖シグナル、細胞の不死化、アポトーシス回避が不可欠である。EGF receptor遺伝子変異、telomerase、survivinは癌細胞に過剰発現しており、これらの要因に関わる。これらを標的とする薬剤を開発することは有望である。今回の研究ではhistone deacetylase(HDAC)阻害薬FR901228とEGF receptor tyrosine kinase(EGFR-TK)阻害薬gefitinibがこれらを標的とするかどうかについて検討した。 肺小細胞癌ではFR901228はミトコンドリア経路を介したカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導するとともに、BCL-2、BCL-xL、survivin発現を抑制した。また、FR901228はtelomerase活性も抑制した。一方、肺非小細胞癌ではgefitinibの細胞増殖抑制効果には、telomerase活性の抑制とE2F-1発現の抑制が関与していた。また、gefitinibは抗癌薬耐性株に高発現している薬剤排出ポンプBCRPやP糖蛋白の機能を阻害し、アポトーシス回避を抑制する作用があった。さらに、bronchioloalveolar carcinomaではAKTの発現が認められ、gefitinibはシグナル伝達を介して抗腫瘍効果とともに、肺癌細胞からの粘液産生を抑制した。以上の結果より、HDAC阻害薬とEGFR-TK阻害薬は、増殖シグナル、細胞の不死化、アポトーシス回避を同時に阻止することが示唆された。
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