本研究の対象となる慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の臨床的・心循環的背景を出来るだけ詳細に把握するために、呼吸機能検査・安静時動脈血所見・High resolution CT検査・心臓超音波検査等を試行した。さらに、個々の患者の最大運動能を評価するために多段階運動負荷試験を実施すると共に、呼気ガス分析・動脈血中酸素濃度を連続的に測定した。次に、右心カテーテル挿入下定常運動負荷試験を試行し、全身の血行動態・肺循環動態の運動に伴う変動を経時的に記録するのみならず、動脈血中の乳酸値・混合静脈血中の酸素濃度等についても、連続測定した。合わせて、近赤外線分光器(NIRS ; near-infrared spectroscopy)を用いて、非侵襲的に末梢骨格筋への酸素運搬能を評価した。このようにして得られた全てのデータを基礎値として、酸素吸入に対する二次性肺高血圧症の進展に関与する候補遺伝子多型による反応性の相違を検討した。すなわち、全てのCOPD患者に対して、酸素投与を行い、その急性効果を検討した。この際に、全身の血行動態・肺循環動態の運動に伴う変動に対する各々の候補遺伝子多型による、酸素投与における急性効果の差異を安静時と運動時に分けて検討した。このようにして、安静時と運動時における末梢骨格筋への酸素運搬能・組織の酸素化能に及ぼす影響を明らかにした。このプロトコールより得られた知見から、我々がこれまで運動時の低酸素血症を呈するCOPD症例に対して、一様に施行してきた運動中のみの酸素投与に対して、遺伝子多型を考慮することにより、その適応と投与量の決定において再考を促すものとなる可能性が示唆された。
|