研究概要 |
肺リンパ脈管筋腫症(LAM)は、肺、腎、体軸リンパ節等に平滑筋様細胞(LAM細胞)が不連続性に増殖する疾患である。LAM細胞は、癌抑制遺伝子の一種であるTSC遺伝子の変異により増殖・分化に異常を生じ形質転換した一種の腫瘍細胞であるが、病理形態学的に癌ほどの悪性度は認めないにもかかわらず転移して新たな病巣を形成する。本研究では、LAM細胞の増殖・転移の機序を明らかにするため、患者の同意のもとに、肺移植や病理診断確定目的の生検時に得られた病変肺組織、腹腔リンパ節のLAM病変、乳糜胸水・腹水、等々の臨床検体よりLAM細胞を分離し、初代培養系を確立した。培養条件は5%O_2の低酸素条件でLAM細胞の増殖が最も良好であった。病変組織からは、LOHを有する大型のLAM細胞とLOHを示さない小型紡錘形細胞の2種類の細胞を分離され、両者は増殖因子(17β-estradiol)、増殖抑制因子(rapamycin, PDGF-R blocker, EGF-R blocker)に対する反応が異なっていた。培養LAM細胞をヌードマウスの皮下、腹腔、肺内など、様々な方式で移植実験を試みたがマウスにLAMの肺病変を再現することはできなかった。一方、LAMに合併する乳糜体液や病理組織の検討により、LAM病巣内でのリンパ管新生の亢進と新生リンパ管内にリンパ管内皮細胞に覆われたLAM細胞クラスター(LAM cell cluster, LCC)を検出しうることを見出した。LAMは体軸リンパ管系や肺に不連続な病巣を形成し、癌とは病理形態学的に異なるが転移により進展することが示唆されていたが、LAM転移病巣の形成にはリンパ管新生に伴うLCC形成がLAMの転移機構の中心的役割を果たすとの仮説を提唱した。
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