研究概要 |
本研究では,ヒト気道上皮細胞を用いて,ウルトラファインカーボンブラック(ufCB)粒子が細胞の増殖・分化に与える影響を検討し,さらにその細胞内シグナル伝達に関わる分子群を解明することを目的として実験を遂行した.その結果,上皮細胞をufCB粒子の存在下で培養すると,濃度および時間依存的に細胞の増殖反応とDNA合成の亢進,ムチン遺伝子(MUC5B, MUC5AC)およびその蛋白質発現の亢進が観察され,その効果は,EGF受容体(EGFR)やDominant negative Ras mutantのトランスフェクションにより抑制された.よって,ufCB刺激に伴う細胞内シグナル伝達に,EGFRおよびRas-ERK(extracellular signal-regulated protein kinase)カスケードの活性化が重要な役割を果たしていることが明らかとなった.また上記実験系で,ufCB粒子によるEGFRのリン酸化,EGFRとアダプター分子(ShcおよびGrb2)の会合,ERKのリン酸化のすべてが確認された.さらに,細胞増殖やMUC5B, MUC5AC発現の増加はヘパリン結合型上皮成長因子(HB-EGF)阻害薬やmetalloproteinase阻害薬による抑制を受け,pro-HB-EGFの減少に伴い可溶性HB-EGF産生の増加も認められた.したがって,ufCB粒子刺激による上記蛋白分解酵素の遊離がHB-EGFのprocessingおよびsheddingをきたし,これがEGFRのリガンドとなる可能性が示唆された.
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