研究概要 |
本研究の目的は、TGF-βの主要シグナル系であるSmadタンパクを細胞内へ直接導入することによる線維芽細胞の機能の変化を解析することである。今年度は、まず培養線維芽細胞を用い、1)線維芽細胞のコラーゲン産生,筋線維芽細胞への分化などに対する作用,2)タンパク導入の効率をin vitroで観察した。培養線維芽細胞として、ヒト線維芽細胞株であるMRC-5、WI-26とマウス線維芽細胞株であるMLg、L929、3T3を用いた。1)Smadタンパク導入前の実験としてTGF-β1刺激による各種Smadの変化、およびその下流にあると考えられるコラーゲン、MMP-9、α-smooth muscle actinの発現について、mRNAレベルならびにタンパクレベルで経時的に検討を行った。2)各培養細胞におけるタンパク導入の効率を、コントロールタンパクであるβ-galactosidaseを用い、顕微鏡にて観察を行った。結果は、1)TGF-β1刺激後48時間内で、MRC-5、WI-26はいずれもコラーゲン産生に変化を示さなかった(ELISA)。また、L929、3T3においても、TGF-β1刺激によるI型コラーゲンのmRNA量は、2倍以内とわずかな変化のみであった。一方MLgにおいてはTGF-β1刺激1時間後にSmad7 mRNAが著明に増加し、3時間後にSmad7 mRNAは減少し、一方I型コラーゲン、MMP-9のmRNA、リン酸化-Smad2の有意な増加を認めた。このように、線維芽細胞においても細胞株によりTGF-βに対する反応は異なることがわかった。以上より、マウスの細胞ではMLgを本実験に使用することとした。2)β-galactosidaseの導入効率はいずれの細胞株でも有意な差はなく、50%以上の細胞において細胞質内および核内に移行するのを確認することができた。
|