研究概要 |
平成16年度は,主に同時多発性細気管支肺胞上皮癌(BAC)患者の実態調査,症例抽出および一部患者の組織検体の採取を行った.まず,胸部X線あるいはCTを用いた検診で肺内に異常影を指摘され,虎の門病院呼吸器センター内科に紹介受診した患者のなかで,高解像度CT(HRCT)スキャンにて,長径10mm以下のスリガラス陰影(GGO)が確認された20歳以上の成人38症例を対象とし,臨床的背景(性別,年齢,喫煙歴,悪性腫瘍の既往歴,家族内の悪性腫瘍の集積の有無),胸部CT所見画像の特徴,病理組織学的所見を検討した.摘出腫瘍44病変の組織型では,腺癌が32病変で最も多く,野口分類によるその組織亜型は,type A 12病変,type B 13病変とA,Bで半数以上を占めた.さらに,異型度の低い異型性腺種様過形成(AAH)が8病変認められた.一方,対象症例中約8%を占める3例で多発病変を呈し,4重癌1例,重複癌+AAH 1例であった.また,その後の症例のうち,複数のBACないしAAHの存在が強く疑われた2症例で全病変を摘出し保存した.すなわち,開胸術あるいは胸腔鏡下手術による外科的治療の適用を厳密に検討し,すべての腫瘤病変の摘出が可能と判断されたため,手術および末梢血・摘出病理組織検体を用いた分子生物学的検討に関する説明・同意のインフォームドコンセントを得た上で,合計手術時の摘出組織を一部新鮮凍結保存し,以後の検討に供することとした.すなわち,1)患者の末梢血細胞中のDNA抽出とそれに用いたp53遺伝子変異の有無の検索によるLi-Fraumeni症候群の判定,2)摘出した複数腫瘍組織と近傍の正常組織におけるcDNA microarray解析によるmRNA発現プロファイリングの差違の検討,3)複数の腫瘍組織と近傍の正常組織におけるP53蛋白等の発現状況の免疫組織化学的検討,4)腫瘍内でのmRNA発現プロファイリングの差違のみられる遺伝子に関する腫瘍内遺伝子差異の検索,などを今後の検討課題としている.このような解析から,多発性のAAH,BACの同時性(synchronous)発症のメカニズムに関し,原発性肺癌の肺内多発性転移,あるいはgerm lineレベルでの主要癌抑制遺伝子異常の存在等に的を絞り,同時多発性肺癌の発症機序を臨床面と合わせて分子レベルで解析していく予定である.
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