研究概要 |
平成17年度は,昨年度に引き続き,同時多発性細気管支肺胞上皮癌(BAC)患者の実態調査,症例抽出および一部患者の組織検体の採取を行った.さらに,今年度にはこれまで経験した先端肥大症と多発性BAC症例2例において,その癌発生の機序に関する検討を加えた.症例1はすでにHardy手術を受けながら,残存下垂体腫瘍のために血中のIGF-Iが異常な高値をとる例であり,血痰を主訴に受診した際の胸部CTスキャンにて,両肺に長径10mm以下のスリガラス陰影(GGO)が複数確認された.胸腔鏡下に左右肺のGGOを可及的に摘出したところ,画像上可視であったものを含め,乳頭状腺癌を1個,BAC7個,前癌病変である異型腺腫様過形成(AAH)11個を確認した.これら腫瘍組織を抗IGF-1受容体抗体で染色したところ,すべてのBACで腫瘍細胞が高度に染まり,AAHでは中等度の陽性を示した.症例2は睡眠時無呼吸症候群を合併した先端肥大症であり,同様に血中のIGF-1が高値で,胸部CTではGGOが1つ認められた.胸腔鏡下の腫瘍摘出術を行なったところ,GGO病変はBACであったが,さらに小さいBACをもう1つ確認した.これら2つのBACを抗IGF-1受容体抗体で染めたところ,ともに腫瘍細胞が陽性に染まった.このように,IGF-1とIGF-1受容体系の過剰発現がBACの同時性多発性発症に関わり持つ可能性があると推測されるため,現在prospective研究を計画中である. 今後も,開胸術あるいは胸腔鏡下手術により摘出された手術検体および末梢血検体を用いた分子生物学的検討に関するインフォームドコンセントを得た上で,手術時の摘出組織を一部新鮮凍結保存し,検討に供する予定である.とくに,複数腫瘍組織と近傍の正常組織におけるcDNA microarray解析によるmRNA発現プロファイリングの差違の検討から,発症に関わる遺伝子群を類推し,これらの遺伝子の腫瘍内遺伝子変異の検索などを,さらなる検討課題としている.このような解析から,多発性のAAH,BACの同時性発症のメカニズムに関し,臨床面と合わせてさらに分子レベルで解析していく予定である.
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