研究概要 |
MRSA感染後腎炎患者25名,IgA腎症患者67名,他種腎疾患患者118名,正常健康人16名を対象として,黄色ブドウ球菌に対するIgAサブクラスの血清抗体価を酵素抗体法で測定,また,MRSA感染後腎炎,IgA腎症各患者の腎生検標本に対して,黄色ブドウ球菌細胞膜抗原に対するモノクローナル抗体,ヒトIgA1,ヒトIgA2抗体を用いて蛍光抗体法による腎組織染色を行った. MRSA感染後腎炎では,IgA腎症を含む他種腎疾患,正常健康人と比較して,黄色ブドウ球菌細胞膜抗原に対するIgA1,IgA2抗体価が最も高値だった(IgA1抗体価:1.339±0.135 O.D.,IgA2:0.094士0.025 O.D.,いずれもP<0.05).IgA産生細胞に対する刺激に対する感受性は,MRSA感染の最中に増加する事が予想されるが,この現象は,MRSAの外毒素に対する宿主反応によるサイトカインの放出によって誘発されている事が示唆された. IgA腎症患者では,黄色ブドウ球菌細胞膜抗原に対して,IgA1抗体価のみ,他種腎疾患患者及び正常健康人よりも有意に高値だった(IgA1抗体価:1.023±0.062 O.D.,P<0.05).我々は,黄色ブドウ球菌による上気道感染を契機とした抗原抗体反応によってIgAを中心とした免疫複合体が形成され糸球体メサンギウムに沈着する機序を提唱しており,ヒトにおける黄色ブドウ球菌の平均保菌率は37.2%で,多くのヒトがIgA腎症のリスクを持つ事にはなるが,IgA腎症患者では黄色ブドウ球菌に対する免疫応答の感受性が高い事が推察された.MRSA感染後腎炎とIgA腎症の間には,多くの類似点が存在するが,今回の現象は,両者を識別する上で重要な点のひとつであると考えられた. 蛍光抗体法による腎組織染色では,MRSA感染後腎炎では80.0%(4/5),IgA腎症では60.8%(28/46)に黄色ブドウ球菌細胞膜抗原の沈着を認めた.両組織共に抗原沈着全例にIgA1が沈着し,抗原と同じ染色パターンを示した.糸球体への沈着におけるIgA1独特の関与,即ち,ヒンジ部のO結合型糖鎖構造の異常の可能性等との関係が示唆されるが,抗黄色ブドウ球菌-IgA1抗体にヒンジ部の糖鎖異常があるか否かはまだ不明であり,実験的IgA腎症誘発モデルの確立と共に,同抗体の構造異常の有無の解明が今後の課題である.
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