研究概要 |
IgA腎症は、世界中で最も頻度の高い糸球体腎炎の病型である。しかしながら現時点において、IgA腎症の発症における起因抗原は明らかとなっていない。我々は以前にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染後に糸球体へのIgAの沈着を伴う新たな糸球体腎炎について報告した(Kidney Int, Vol.47,207-216,1995)。そこで、IgA腎症の病因における黄色ブドウ球菌表面抗原の関与を免疫学的に検討するため、黄色ブドウ球菌の細胞膜表面抗原に対する数種類のモノクローナル抗体を作成し、IgA腎症患者の糸球体に沈着した抗原のエピトープを検討した。 方法: 黄色ブドウ球菌培養から黄色ブドウ球菌細胞膜表面の膜抗原を分離した。この膜抗原に対するマウスモノクローナル抗体を作成し、アフィニティーカラムで精製後、この抗体の標的抗原のアミノ酸配列、DNA配列を解析した。IgA腎症患者116名、IgA腎症以外の腎生検組織(122名)について、血清中の黄色ブドウ球菌抗原に対する抗体価の定量ならびに、蛍光顕微鏡により、黄色ブドウ球菌抗原の糸球体への沈着の有無を確認した。 結果: 得られたモノクローナル抗体で認識する黄色ブドウ球菌の主要抗原は黄色ブドウ球菌細胞膜抗原のadhesin(ACCESSION AP003131-77,Protein ID ; BAB41819.1)であることが推測された。IgA腎症患者ならびにMRSA感染後腎炎患者の血清中にはIgGクラス、IgAクラスの黄色ブドウ球菌細胞膜抗原に対する抗体価が他の腎炎患者、正常コントロールに比べ有意に高値であることを確認した。IgA腎症患者116名中79名(68.1%)の腎生検組織で糸球体内の同抗原の局在を確認した。またこの抗原沈着部位にはlgA抗体があわせて局在することを確認した。免疫複合体の沈着を認めない腎炎患者にはこの抗原の糸球体への沈着はないものの、数名の免疫複合体沈着を伴う腎炎患者糸球体への沈着を認めた。 結論: 黄色ブドウ球菌細胞膜抗原がIgA腎症発症抗原の新たな候補であることが確認された。
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