本研究は血圧と体液量調節機構におけるペルオキシゾーム増殖因子受容体(PPARγ)の役割を明らかにするために発案されたものであり、PPARγのアゴニストであるチアゾリジン系薬剤投与に伴う浮腫の発生と密接な関連を有することが想定されている。現在までにチアゾリジン系薬剤が細胞内伝達系の一種であるERK経路を介して極早期に(数分以内)近位尿細管再吸収を亢進させ、またこの作用がPPARγ阻害剤により抑制されることを明らかにした。同様の作用は内因性のPPARγアゴニスト(deltaPGJ2など)によっても再現された。近位尿細管におけるPPARγの発現については免疫組織学的解析により確認することができ、主に細胞質内に限局することが明らかになった。またチアゾリジン系薬剤に対する細胞内pHの変化がPPARγ阻害剤の有無により全く逆となることから、チアゾリジン系薬剤の近位尿細管作用にはPPARγを介するものと、そうではないものが存在することが明らかになった。 一方、PPARγ欠損マウスから得た胎児線維芽細胞においてはPPARyを遺伝子導入することによって初めて、チアゾリジン系薬剤によるERK経路を介したNa/H交換輸送体(NHE1)の活性化が生じることを確認した。これらの知見はチアゾリジン系薬剤によるERK活性化がPPARγを介したnongenomic作用によることを強く示唆している。
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