研究概要 |
【目的】我々はこれまでの研究でビタミンK依存性増殖因子であるGas6が糖尿病性腎症の発症に重要な役割を演じることを明らかにした。今回の目的は糖尿病性腎症の初期病変の特徴であるメサンギウム細胞肥大に関与することが明らかとなったGas6によるメサンギウム細胞肥大の分子機構を明らかにすることである。【方法】in vivoにおいてストレプトゾトシンによる糖尿病ラット及びマウスを作製し、その糸球体蛋白を用いてAkt/mTOR経路に存在する細胞内伝達物質であるAktとp70 S6キナーゼの発現及びそのリン酸化をウェスタンブロットにより検討した。またメサンギウム細胞肥大抑制作用を持つワーファリンによりその活性が変化するかどうかも検討した。またin vitroにおいてメサンギウム細胞肥大を評価するため[3H]ロイシンの取り込みを行い、その系においてPI3キナーゼの阻害剤であるウォートマニン、もしくはmTORの阻害剤であるラパマイシンによる肥大抑制効果の有無を検討した。【結果】ストレプトゾトシンによる糖尿病ラット及びマウス12週目の糸球体蛋白においてAktとS6キナーゼの発現が増強し、それらのリン酸化が起きることが明らかになった。さらに、そのリン酸化はワーファリン投与により抑制された。Gas6ノックアウトマウスにおいてもAkt、S6キナーゼの発現、リン酸化は抑制された。メサンギウム細胞にGas6を添加する[3H]ロイシンの取り込み実験ではウォートマニンの使用にて取り込みはほぼ抑制されなかったが、ラパマイシンにて有意に抑制された。またGas6による細胞肥大実験において細胞内伝達物質の活性を検討したところAktのリン酸化及びp70 S6キナーゼのリン酸化が認められたが、ウォートマニンではAktのリン酸化は完全に抑制されたがp70 S6キナーゼのリン酸化は完全には抑制されなかった。一方ラパマイシンにてAktのリン酸化は抑制されなかったが、p70 S6キナーゼのリン酸化は完全に阻害されていた。【結論】我々はAkt及びp70 S6キナーゼが糖尿病性腎症の発症に関与しうることをin vivo, in vitroの系を用いて証明した。
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