研究概要 |
本来、腹膜透析は末期腎不全患者の在宅医療を可能にし、QOLを高めることの出来る治療法であるが、患者腹膜は経年的に"腹膜硬化"が認められる。これは腹膜劣化や被嚢性腹膜硬化症に進展する可能性が高いため、長期間の腹膜透析を断念せざるを得ない要因となっている。 今回、我々は、2つの視点から実験を行った。一つは線維化に重要な分子シャペロンとされている熱ショック蛋白(heat shock protein 47,以下HSP47)遺伝子発現を抑制する実験であり、もう一つは、中皮細胞の再生に関する実験である。前者は、HSP47遺伝子の発現を抑制するためにRNA干渉を用いた。クロールヘキシジンによる実験的腹膜硬化症を惹起する3日前にHSP47に対するsiRNAのベクターとして、京都大学再生医科学研究所の田畑教授より供与を受けたカチオン化ゼラチン粒子を用いて、HSP47 siRNAを投与した。HSP47 siRNA投与によりHSP47の発現、コラーゲン産生は減弱し腹膜硬化の進展は抑制された。また、ゼラチン粒子の徐放効果により、腹膜線維化進展を3-5週間にわたり持続的に抑制することに成功した。 また、腹膜硬化症に陥った腹膜を鈍的に剥離し、その後の腹膜の変化を観察した。剥離後7日でサイトケラチン、HBME-1陽性の腹膜中皮細胞に覆われた腹膜が再生した。この細胞表面には、中皮細胞の特徴とされる微絨毛が走査電子顕微鏡により観察された。この中皮細胞再生の過程において、間葉系細胞のマーカーであるビメンチン陽性細胞が腹膜表面に出現してきており、間葉系の細胞の腹膜中皮の再生への関与が明らかとなった。 このようにゼラチン粒子と組み合わせたHSP47 siRNAによる実験的腹膜硬化症の抑制効果と、線維化腹膜においても腹膜中皮細胞が再生しうることが明らかとなった。
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