研究概要 |
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群(HUS)は、臨床的に鑑別することは困難で血栓性微小血管障害症(TMA)と診断されることが多かった。最近、von Willebarand因子(VWF)を特異的に切断する酵素(ADAMTS13)の活性測定法が確立され、TMAの診断にブレークスルーをもたらした。本研究では、TMAの中で、腎機能障害が強い症例を中心に、ADAMTS13活性の検討を行い、病因を明らかにすることを目的とした。腎機能障害が強い症例は、一般にはHUSと診断されることが多く、また膠原病関連TMAの症例、特に強皮症で高度腎障害の症例が多数認められる。奈良医大輸血部では、平成17年11月末で、643例のTMAにおいてADAMTS13活性の測定を終了した。これらの症例を、臨床診断をもとに分類すると、先天性TMAが46例であった。後天性の中でTTPと診断された症例は498例、HUSと診断された症例は99例であった。HUSと診断された症例の中には、ADAMTS13活性が3%未満に著減する症例は1例も無く、本酵素の病態への関与は少ないものと考えられた。また、後天性TTPの中で基礎疾患が存在しない特発性200例中、ADAMTS13活性が著減した症例は121例(61%)であるのに対して、膠原病に関連したTTPでは151例中27例(18%)に過ぎなかった。膠原病の中でも、SLEに合併したものは63例中、酵素活性著減例が13例(21%)に対して、強皮症では33例中1例(3%)しか認めず、基礎疾患による病態の違いが予想された。これらの症例の病因として、ADAMTS13の減少ではなく、VWF自体の増加が確認できた症例もあった。今後、IL6,IL8,TNFαなどのサイトカインの測定と簡便なFactor H活性の測定法を開発し、検討していくことを予定している。
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