IgA腎症は腎糸球体メサンギウム領域にIgAが優位に沈着することを特徴とする。本邦では発生頻度が極めて高く、糸球体腎炎の役40%を閉めるといわれている。本症はきわめて緩慢な経過をとるが、約20年の経過で40%の症例が末期腎不全に至る、極めて重要な疾患である。臨床的には扁桃炎等の急性上気道炎直後に肉眼的血尿が一部の本症症例にみられる以外には、臨床症状が乏しいことが特徴である。検査所見としては、持続的な血尿・蛋白尿がみられるが、ネフローゼ症候群を呈することはまれである。約半数の症例で血清IgA値の上昇がみられる。 現時点で本症の成因・根治療法・予防法は確立されていない。我が国の慢性維持透析患者は近年25万人を越えて増加の一途をたどり、その医療費は透析療法のみで約1兆円(全体の医療費の約3.3%)と推計される。そのうちIgA腎症による透析患者数は推定4〜5万人、新規透析導入患者年間約3万人のうち数千人はIgA腎症患者と推定される。透析医療費の抑制という医療経済的見知からも、IgA腎症に対する根治的治療法・予防法の開発は急務であり、最重要課題の一つであると考えられる。 我々はIgA腎症の成因として、ヒトIgAlヒンジ部に存在するO結合型糖鎖の異常という新しい仮説を立て検討し、本症の糸球体lgA沈着にIgAlヒンジ部糖鎖の構造異常が関与する事を明らかにしてきた。一方、IgAl分子のヒンジ部分はヒトとマウスで大きく異なりマウスIgAlにはO結合型糖鎖構造が存在しえない事から、動物モデルを用いたIgAlヒンジ部0結合型糖鎖の解析に有用なマウスモデルは存在しなかった。そこで、本助成によりでは、ヒト型免疫グロブリンをもっキメラマウスを用い、O結合型糖鎖構造異常によるIgA腎症発症モデル動物としての可能性を検討した。
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