慢性糸球体腎炎、高血圧性腎症、糖尿病性腎症のいずれにおいても腎機能低下の経過の中では糸球体硬化が認められ末期腎不全へと進行していく。糸球体硬化については糸球体内圧の上昇がその大きな要因であることが知られている。腎臓においては輸入細動脈と輸出細動脈および傍糸球体装置において尿細管-糸球体フィードバック機構(TGF)を形成し糸球体内圧を変化させて体液調節をおこなっている。神経型NO合成酵素(nNOS)は腎臓においてはこの部位に局在と発現の調節が報告され、糸球体内圧の調節に重要な働きをもつと考えられる。ラットにおいてnNOSの阻害をおこなうと糸球体濾過率が低下すること、糖尿病性腎症モデルラットにおいてnNOSが減少していくこと、腎不全モデルラットにおいて腎不全の進行とともに腎臓でのnNOSの発現が減少することが報告されている。また、自然発症高血圧モデルラットにNOS阻害剤を投与すると糸球体硬化を認め、高血圧の進行が早いことが報告されている。そこで、トリプルノックアウトマウスにおいて糸球体の変化を確認したところ、糸球体硬化像が野生型マウスに比べ強く発現していた。また、さまざまなNOSノックアウトマウスで尿量、尿浸透圧、血圧など評価をおこなった。収縮期血圧は内皮型NOS(eNOS)がノックアウトされている場合に上昇していた。ダブルノックアウトマウスにおいてはnNOS、eNOS、誘導型NOS(iNOS)の組み合わせに関係なく尿量の増加を認め、トリプルノックアウトマウスにおいて更なる増加を認め尿浸透圧の低下を認めた。トリプルノックアウトマウスではアクアポリン2蛋白の発現が減少しており、バゾプレッシンによる尿濃縮力も低下を示した。このためNOはTGFに関与し糸球体硬化において重要な役割をもつとともに、糸球体濾過量の変化および尿細管における水調節にも関与することが示唆された。
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