茨城県神栖町飲用井戸水汚染によるDPAA中毒は、世界で最初の報告である。DPAA中毒の症状は、ミオクローヌス、振戦、小脳失調などの小脳-脳幹由来の症状と視覚異常、睡眠障害、記銘力障害などの後頭葉、側頭葉由来の症状であった。これら各症状は入院後(飲水中止後)1〜2週間で徐々に軽快し、退院後(飲水開始後)1〜2ヶ月で症状が増悪するという特徴を示していた。加えて小児では精神運動発達遅滞がみられた。高濃度汚染地域(A地区)と比較的高濃度汚染地域(B地区)が明らかになっているが、汚染濃度はA地区にてDPAA約15mg/L、B地区ではA地区の1/10程度の汚染であった。平成17年度末の曝露認定者135名の生活因子、臨床所見、検査所見、生体試料中DPAA濃度をデータベース化し、様々の解析を試みた。既述の各症状・症候の出現頻度をA地区(34名)、B地区(67名)で比較したところ、A地区で各症状出現が有意に高かった。(_X2検定:p<0.01)脳血流シンチグラフィの解析では(1)側頭・後頭部、(2)小脳、(3)側頭葉内側部(海馬付近)の血流低下がみられ、急性期の症状責任部位に一致していた。症状の改善に伴い脳血流低下が改善していることから、これら脳血流シンチグラフィは有機ヒ素中毒におけるバイオマーカーになる可能性が考えられた。また、複数の曝露者の尿中DPAA及び爪、毛髪中DPAAを測定したところ、曝露中止後約300日で尿中DPAAは検出されなくなった。爪からは曝露中止後3年以上経てもDPAAが検出された。これらの知見は、新たにDPAA中毒が発生した場合に有用な情報になると考えられた。DPAA中毒が発覚して約2年経過したが、後遺障害と考えられる症状も認められることから、住民健診を継続して行っていく必要がある。今後、DPAAの体内動態や中枢神経系への蓄積の有無、DPAAの神経細胞障害性など、本研究を通して明らかにする予定である。
|