【目的】炎症マーカーの一つであるSAAは、中枢神経系にも発現していることが近年明らかになった。アルツハイマー型認知症では脳内のSAA量が増加しており、SAAがどのようなメカニズムでアルツハイマー型認知症の発症や進展に寄与しているかが注目されている。本研究では、SAAがCSF-HDLからアポ蛋白を解離させるのか、その効果がSAA濃度や時間に依存するのか、CSF-HDLとアミロイドβの結合にどのような影響を与えるという3つの課題について検討した。 【方法】正常の髄液をプールし、髄液にPBSまたはSAAを添加した。SAA添加および非添加の髄液を、アミロイドβと37℃でインキュベーションした。CSF-HDLのアポ蛋白分布やアミロイドβとの結合は、非変性二次元電気泳動とウエスタンブロットで解析した。 【結果および考察】SAAを添加すると、apoE、apoAI、apoAIIの順にCSF-HDLから解離した。PBSではアポ蛋白は解離しなかった。37℃でインキュベーションすると、アポ蛋白の解離はさらに進行した。アミロイドβをコントロール髄液と37℃で3時間incubationすると、CSF-HDLとの結合が認められた。髄液にSAAを添加し、その混合液にアミロイドβを加えてincubationすると、アミロイドβはCSF-HDLとのみ結合し、解離したアポ蛋白とは結合しなかった。 【結論】SAAは濃度依存性にアポ蛋白を髄液中HDLから解離させ、37℃でincubationするとさらに増加する。解離したアポ蛋白はアミロイドβとは結合しない。Alzheimer型認知症では脳内のSAAが増加しているという報告があるため、中枢神経系の慢性炎症が、髄液中HDLからアポEを解離させ、アミロイドβの髄液中からのクリアランスを低下させているのではないかと推定された。
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