研究概要 |
Matrix metalloproteinases (MMPs)は細胞外マトリックス成分分解の主役を担う酵素群であり、発生,創傷治癒等における組織のremodelingにおいて重要な役割を果たす一方,癌の浸潤・転移,動脈瘤,関節炎,拡張型心筋症など種々の病的状態において活性の調節機構が破綻して病態を促進していることが報告されている.またマウスの実験的筋壊死再生モデルやmdxの骨格筋におけるMMP-2,-9(gelatinase-A,-B)の発現・活性の上昇,MMPのβ-dystroglycanのプロセシングへの関与など,筋ジストロフィーの病態への関与も示唆されている.本研究では筋ジストロフィー犬(CXMDJ)の骨格筋におけるMMP-2,-9の活性および局在について検討し,筋ジストロフィーの病態における役割について検討した.正常犬およびCXMD_Jそれぞれ9匹(1、4、5、6、11、12、14、28ヶ月齢)の前脛骨筋を用いてgelatin zymographyでMMP-2、-9の活性を、また4ヶ月齢の正常犬およびCXMD_Jの前脛骨筋を用いてfilm in situ zymographyでgelatinaseの活性の局在部位を検討した。さらに、4ヶ月齢の正常犬およびCXMD_Jの前脛骨筋でMMP-2、-9、CD11b、laminin B2およびMHCdの局在を免疫組織化学的に検討した。proMMP-2、MMP-2、proMMP-9の活性は正常犬と比較しCXMD_Jで有意に増加し、月齢に関わらず高値が持続していた。正常犬ではproMMP-2の活性は月齢との有意な負の相関を認め、低月齢において増加していた。また、4ヶ月齢のCXMD_Jでは壊死・再生部位に強いgelatinase活性を認めたが、MMP-2およびMHCdは再生線維に共局在を認め、MMP-2陽性筋線維はMHCd陽性筋線維よりも少数であり、再生早期の筋線維に限局していた。一方、MMP-9は炎症細胞の侵入した壊死線維やその周囲間質に局在を認め、CD11bと共局在を示し、細胞浸潤を認めるMMP-9陽性の壊死線維ではLaminin B2の染色性が不均一に低下していた。以上の結果から、以下のことが推測された。(1)proMMP-2は低月齢の正常犬で有意に高く、生理的な筋組織の成長発達に関与している可能性がある。(2)MMP-2、-9の活性はCXMD_Jでは月齢に関わらず高値を示し、病態との関連が考えられる。(3)MMP-2はMHCd陽性線維の一部に共局在を認めたことから筋の再生の早期に関与している可能性がある。(4)MMP-9は壊死線維と炎症細胞に局在しており、壊死線維の除去による筋再生への促進的な役割もしくは過度な発現が組織障害性に働き、筋壊死に対して促進的に働いている可能性がある。
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