研究概要 |
パーキンソン病の運動障害は大脳基底核の異常に起因するが,随意運動調節障害は大脳皮質からの運動コマンドの皮質レベルでの障害,基底核での障害,脊髄レベルでの障害にわけられる.一方,痙縮における筋緊張異常は脊髄神経機構への上位中枢からの調節障害である.本研究ではそれぞれに関与する系統について脊髄反射,経頭蓋磁気刺激を用いて系統的に研究することを目的としている. パーキンソン病における脊髄レベルでの統合に関して,電気的に誘発したH反射と腱叩打によるT波の関係を系統的に研究した.パーキンソン病ではT波はH反射と比して正常者よりも大きく,その傾向は随意収縮中に著しかった.これは、脊髄での随意運動遂行中の運動調節異常を示しており、α-γ運動連関などの脊髄レベルでの調節異常がパーキンソン病では障害されており,それが随意運動障害の原因となっている可能性が示された. 痙縮においてはIb介在神経細胞が歩行との関連で動物実験では注目されているが,今研究では痙性対麻痺における随意運動中のIb抑制経路の活動を検討した.安静時のIb抑制は正常と同様であったが,正常者で増加する随意運動中のIb抑制の増加が痙性対麻痺を持つ患者ではこれが減少していた.また,増加が少ない患者ほど10m歩行に要する時間が延長していた.これは痙縮における中枢性調節機構の脱落が運動障害と関連していることを示している. また,これらの研究を行う中で,いわゆる心因性運動障害と器質性中枢性運動障害がこれらの研究方法を用いることで判別できることが示された.これは皮質内での運動プログラミングの形成が無意識的に抑制されているために生じている可能性がある.これは中枢性運動障害の発生機序を考える上でも重要な所見である.
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