研究概要 |
パーキンソン病に代表される神経変性疾患では、神経細胞内に蓄積する不溶タンパクと選択的な細胞死が共通した特徴であり、パーキンソン病では、それぞれ、αシヌクレイン陽性封入体(Lewy小体)とドーパミンニューロン死である。研究者らはこれまでにタンパク分解系の主要な経路であるプロテアソームを阻害した場合、ドーパミンニューロン内にαシヌクレイン陽性封入体が形成される一方、この場合は、ドーパミンニューロン死が拮抗されることを中脳ドーパミン神経の初代培養を用いて報告した(Sawada et al., J.Biol.Chem. 279:10710,2004)。本研究では、これを発展させ、ラットin vivoモデルにおいても6-hydroxydopamine誘発ドーパミンニューロン死に対して、プロテアソーム阻害役がニューロン死を拮抗することを病理学的に示し、また、その場合、ドーパミンニューロンの機能も保たれることをラットの行動学的検討より明らかにした(Inden et al., J.Pharmacol.Sci. 97:203,2005)。これらの実験結果は、プロテアソームが阻害された条件では、不溶タンパクの細胞内蓄積が促進されることから、細胞死が促進される状況が考えられる従来の仮説からは逆説的な結果といえる。そこで、この逆説的な現象がどのような分子機構に基づいているかに焦点を当てて検討を進めた。その結果、プロテアソーム阻害下では、熱ショックタンパク70が顕著に誘導されること、グルタチオンの増大が生じることが示された。このグルタチオンの増大は、p38 MAPキナーゼのリン酸化を介していること、p38MAPキナーゼを阻害するとグルタチオンの増大が見られなくなることを明らかにした(論文投稿中)。パーキンソン病では、脳内ドーパミン神経のみならず、心筋など交感神経節後線維にも変性脱落がみられるが、これにはドーパミン、ノルエピネフリンなどのカテコラミンが関与していると考えた。初代培養ドーパミンニューロンにおいては、ドーパミン参加代謝物であるパラキノンが重要な役割を果たしていることを証明し、報告した(J.Neurosci.Res. 82:126-137,2005)。また、臨床的には、心筋のみならず、瞳孔散大筋の交感神経節後線維にも同様な脱落があることを臨床薬理学的に示した(JAMA 293:932,2005)。
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