研究概要 |
プレセニリンPS1は家族性アルツハイマー病の原因遺伝子であるが、プレセニリンが種々の基質蛋白を切断することにより、これらの蛋白の細胞内成分が遊離し、核へ移行し、核内で情報伝達を制御している可能性が指摘されている。本研究では、プレセニリンによって切断が制御される蛋白質の機能的意義の詳細について、特に、N-cadherinに焦点をあてて検討した。 (1)PS1により切断される基質:PS1はγセクレターゼの主要構成要因としてAPP、LRPなどを基質に持つ。われわれは、LTPに必須のシナプス蛋白であるN-cadherinがPS1により切断され、この切断断片が核へ移行することを見出した。現在は、ヒト培養細胞より蛋白を抽出し、2次元的に分画化した生化学的にスクリーニングにより、このN-cadherinの切断断片が制御するシグナル伝達系の詳細を解析中である。さらに、PS1の他の基質であるAPP,LRPについては、抗体アレイ、DNAアレイ、及びgel shift motility assayにより、結合因子をスクリーニングしている最中である。 (2)CTF2が制御するbeta-cateninの代謝の解析:さらにわれわれはN-cadherinの切断断片CTF2は、核へ移行した後、beta-cateninの転写をupregulateし、Wntシグナル伝達系を活性化することを見出した。この制御作用の機序を特定し、これがtauのリン酸化にかかわっているかどうかを現在評価中である。 (3)N-cadheriの切断のin vivoにおける意義の検討:N-cadherinのPS1による切断により、Wnt signalingが制御されることがわかったため、切断されないN-cadherinをノックインしたマウスを作成することにより、in vivoにおける機能を推定する。このマウスにおいてシナプスの変性を呈する表現型が期待され、アルツハイマー病の神経変性のモデルになりうる可能性がある。これについては、今後の解析結果が待たれる。
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