AD原因遺伝子であるプレセニリンPS1はγセクレターゼの主要成分として、さまざまな基質を切断し、シグナル伝達を制御していることが近年の研究より明らかにされてきた。申請者は、PS1シグナル伝達における未知の機能に着目し、PS1による基質の切断が、生理的・病理的にどのような意味を持つのかと言う点を明らかにしようと考えている。平成16年度において申請者らは、シナプス蛋白であるN-cadherinがPS1の基質の一つであることを明らかにし、神経伝達物質の刺激に応じてPS1により切断されることを明らかにしてきた。平成17年度は、それをさらに推し進めて、特にN-cadherinとその相互作用蛋白であるcateninを中心に、PS1によるシナプス関連蛋白の転写制御について検討し、PS1による膜蛋白(N-cadherin)切断という現象が記憶の基盤をなすシナプス可塑性に与える影響を細胞生物学的に検討した。この結果、N-cadherinはADAM10とPS1により段階的に切断され、それが同じくシナプス蛋白であるβカテニンの転写を制御することが細胞レベルで明らかになった。この結果を踏まえ、これまでのアルツハイマー病のモデルマウスで解き明かされなかったシナプス変性の解明という新規な観点から、新しいADのモデルマウスを作成するための実験を開始している。これにより、従来の仮説とは異なるシナプス脱落に関する新しい病態のメカニズムを提示し、ADの病態研究において新たな一面を切り開きたいと考えている。
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