眼咽頭筋ジストロフィー(OPMD)は40歳以降に眼瞼下垂、嚥下障害、四肢近位筋力低下を主徴とする常優性筋難病である。従来白人の稀な疾患とされていたが、私共が15年前に本邦初家系を報告して以来、人種を超え33カ国以上で多数の家系が集積された。1998年にカナダとの共同研究で原因遺伝子がPABPN1であり、健常者ではexon1の(GCG)6すなわちN端側alanine10個が患者では(GCG)8〜13に異常伸長し、alanineが13〜17に増えることを明らかにした。さらにPABPN1の抗体を作製し、正常では核内specklesに同蛋白がpatchyに存在するが、OPMD患者筋では核内に異常凝集塊を形成することを初めて明らかにした。この病態はCAGの異常伸長で中枢神経の変性疾患を生じるポリグルタミン病や不溶性のアミロイド蛋白が沈着して発病するアミロイドーシスと酷似している。2年前にアミロイドの異常凝集を抑制するCongo-redとテトラサイクリン系抗生剤のDoxycyclineがOPMDのモデル細胞において、核内のPABPN1異常凝集と細胞死を抑制することを報告した(J Med Genet).本年度は同様の治療効果がOPMDと類似した病態をとるポリグルタミン病においても得られるのか否かをHuntington病のモデル細胞(HD)を作製し、OPMDのそれと比較検討した。その結果、HDにおいては、OPMDではDoxycycline 100μM投与時のみ凝集・細胞死の抑制効果を認めたのに対し、HDでは50μMの投与量でも有意な抑制効果を認めた。一方、Congo-redを用いた検討では、OPMDにおいて抑制効果が顕著であった。私共の世界初のOPMDモデルマウスにおいて、Doxycyclineの経口投与による治療効果を現在検討中である。さらに、drug deliveryシステムを改善し、副作用を少なくする目的で、Doxycycline封入複合脂質膜(DOXY-HL)の調整を行った。また、ポリグルタミン病のモデル動物で有効であったトレハロース封入複合脂質(Treha ^HL)の調整を試みた。
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