急性小脳性運動失調症(Acute cerebellar ataxia : ACA)患者血清中の自己抗体の検索と抗原分子の同定、抗体の反応特性の解析を行った。小脳のSDS抽出蛋白を抗原として用いたACA患者血清のウェスタンブロットによるスクリーニングにおいて、約26kDaの蛋白と強く反応するIgM抗体を認め、反応バンドのN末端アミノ酸配列分析により抗原蛋白がトリオースリン酸イソメラーゼ(triosephosphate isomerase : TPI)であると同定した。多数例の検討では、ACA患者23例中8例で急性期にIgM抗TPI抗体の上昇を認め、いずれもEpstein-Barrウイルス(EBV)感染後のACA患者であった。抗体価の経時的推移の検討では、抗体価は神経症状の出現前より既に上昇しており、発症の頃にピークに達しその後漸減した。精製されたTPIをウサギに免疫することにより血清IgG抗TPI抗体の速やかな上昇を認めたが、神経症状の出現は見られなかった。各種組織抽出蛋白をとの反応性の検討では、ACA患者の抗TPI抗体は免疫動物の抗TPI抗体に比して、小脳のTPIとより強く反応する傾向が見られた。また患者と免疫動物ではTPIの蛋白分解酵素処理による部分分解産物との反応パターンが異なっていた。これらのことからは、EBV感染後ACA患者で上昇する抗TPI抗体は、免疫動物の抗TPI抗体と認識するエピトープが異なると考えられた。分解産物を二次元電気泳動により分離し、反応および非反応スポットのN末端アミノ酸配列解析の結果からは、EBV感染後ACA患者の抗TPI抗体の主たるエピトープはTPIのC末端側の約80-100アミノ酸残基中に存在すると考えられた。
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