研究概要 |
私共の先行研究を基盤として,詳しく小脳活動の各成分の生理学的背景を探るとともに,同時に記録される大脳皮質体性感覚野の応答との時間関係を解析することにより大脳・小脳間の機能関連を解明するのが本研究の目的であった。これらの研究により小脳への末梢からの入力、小脳から大脳皮質への連絡、大脳皮質から小脳への下行性入力を明らかにし、最終的に大脳.小脳間の機能関連を解明が期待された。そして得られた新しい知見を小脳疾患の病態生理解明と機能診断に応用する予定であった。 1.小脳活動の体部位再現についての研究 動物では小脳活動の体部位再現の存在が知られている。このような体部位再現がヒトでも存在するかどうかを検討するため、上肢下肢の諸神経を刺激し、小脳活動を計測した。6箇所の異なる神経幹上に電極を配置し、一試行の中でランダムに刺激を与えて、得られた観測データから逆問題を解いて、小脳活動の体部位再現の有無をヒトにおいて検証した結果、明らかな体部位再現の存在は認められなかった。 2.小脳の定常状態反応(steady state response)の検出 8Hzと16Hzの周期的刺激で正中神経を刺激すると、8Hzに対する小脳近傍の定常状態反応が検出できる例あった。しかし信号源の詳しい位置情報について空間フィルター法を用いて検討した結果、小脳前葉に信号が見られた。 3.過渡的小脳反応の複数電流双極子法による位置の推定 小脳・後頭部に明らかな双極子パターンを認める健常被験者では約3分の一で複数電流双極子法による小脳反応の位置の推定が可能であった。しかし通常は強大な大脳皮質体性感覚野活動が重畳するため推定精度は必ずしも満足できるものではなかった。したがって小脳の磁場反応を小脳障害の機能診断に応用するための刺激の与え方ならびに解析法についてさらに検討する必要がある。 今後の課題としては、磁場環境の良好な場所での実験と解析法の開発が待たれる。
|