研究概要 |
骨髄移植法は臨床的に治療法として既に確立されており,種々の臓器に対する再生医療の手段として注目されている。我々は筋ジストロフィーの治療法としてこの骨髄移植法を用い、骨髄細胞中に存在している筋原性幹細胞(myogenic stem cell)を骨格筋細胞へと分化誘導し、罹患筋中に健常筋を再生させるという再生治療法を目指している。臨床応用へ進む最初の段階として、筋ジストロフィーのモデルマウスにおいて骨髄移植法が有効であり再生治療として実現可能であるか検討することを本研究の目的とした。筋ジストロフィーのモデルマウスとして、細胞外マトリックスの1つであるラミニン(laminin)に異常のあるdyマウスと、筋細胞膜に存在するジストロフィン複合体の構成要素の1つであるdystrophinに異常のあるmdxマウスを用いた。dyマウスはヒトにおける先天性筋ジストロフィーの、mdxマウスはDuchenne型筋ジストロフィーのモデルとされている。研究は以下のような計画で実施した。1,dyマウス,mdxマウスをレシピエント,EGFPマウスをドナーとして、尾静脈より骨髄移植を行った。その後レシピエントのモデルマウスに対して、2,ドナー由来筋の発現の解析3,外見、体重、寿命等臨床所見の解析4,生理学的機能として握力・呼吸機能の測定5,レシピエント筋の病理組織学的解析を行った。その結果、モデルマウスのdy,mdxマウスいずれもドナー由来の細胞の生着が認められた。しかしmdxマウスにおいては、骨髄移植によるドナーの生着はみられたものの、表現型の改善をもたらすほどの効果は得られなかった。一方dyマウスでは寿命が延長し、体重も有意に増加した。また、握力や呼吸機能の改善もみられた。以上の結果より、骨髄移植法は筋ジストロフィーの治療法としても有効であると考えられた。また、細胞外マトリックスの異常と筋細胞膜構成成分の異常という筋ジストロフィーの発症機序の相違によって、骨髄移植の効果が異なる可能性が示唆された。したがって筋ジストロフィーに対して幹細胞を含む骨髄移植を実施する場合は、その対象疾患によって得られる効果が異なり、細胞外マトリックスであるラミニンに異常があるタイプの方がより効果が期待できるものと考えられた。これらの成果は、日本神経学会総会、厚労省筋ジストロフィー班会議で発表したとともに、英文誌に投稿中である。
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