TCA回路は高い効率性を有する洗練されたシステムではあるが、細菌などの下等生物細胞においては、必ずしもこれに依存しない嫌気的発酵などのエネルギー産生経路も発達している。一般に高等生物ほどTCA回路への依存度が高まり、ヒトでTCA回路構成酵素群の欠損症が極めて稀で、大部分は胎生致死と思われることからTCA回路が哺乳類生存に極めて重要であることが予想される。しかし実はこれまで、同回路が哺乳動物において、真に必須経路であるかどうかは証明されていなかった。今回、ヘテロ欠損マウスは完成し、ホモ欠損マウスは予想通り胎生致死であることが判明した。このこと自体、生物学の根本的課題として大きなインパクトを有すると考えられる。解析対象のヘテロKOマウスにおいて、目的遺伝子の発現阻害は転写・翻訳・機能レベルで確認できた。その表現形解析を通して、各種生理的・病的状態のエネルギー代謝における、TCA回路の意義解明を実施している。現在胎内死亡時期が確定され、さらに他のエネルギー代謝関連遺伝子ノックアウトマウスとのダブルノックアウトマウス・プロジェクトも進行中であり、同回路の部分阻害による各エネルギー代謝経路への影響の検討、同回路を補佐する代替エネルギー供給経路の検索、代謝疾患の病態生理との関係の検討を行っている。これらを通して同回路修飾を標的にした創薬や遺伝子治療による代謝疾患の抜本的治療法開発など、本研究を端緒にした多くの可能性が開けるはずである。
|