研究概要 |
現代のエネルギー代謝疾患の増加は、ヒトのエネルギー代謝システムが近代のエネルギー需給バランスの急激な逆転に適応できなかった結果である。TCA回路は高い効率を有する洗練されたシステムではあるが、細菌などの下等生物細胞ではこれに依存しないエネルギー産生経路も発達している。クエン酸合成酵素(CS)遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作成・解析し、同回路阻害による各エネルギー代謝経路への影響の検討し、同回路を補佐する代替エネルギー供給経路の検索、代謝疾患の病態生理との関係の検討を行った。本KOマウスはホモ欠損マウスが胎生致死であったが、ヘテロ欠損マウスについてはCS酵素活性が半分であることが判明した。エネルギー産生の低下したマウスにおいて基礎代謝、代謝性疾患の感受性、危険因子の発生、動脈硬化惹起性にもたらされる影響は、ライフスタイルと生活習慣病において重要な知見をもたらすと期待される。ヘテロマウスを基礎状態ならびに高糖高脂肪食で長期間飼育したところ、耐糖能・脂質・ケトン・乳酸・アミノ酸などのエネルギー代謝経路に様々な修飾が加わっていることが判明した。また肝・筋・脂肪などの組織のエネルギー代謝関連遺伝子の発現にも影響を及ぼしていることが示された。今後は、本マウスを利用して、胎内致死に至る前のホモ欠損マウス、および野生型マウス胎児よりそれぞれ胎児繊維芽細胞(MEF)を得て、エネルギー産生能、ATP,ATP/AMP比、解糖系、脂肪酸酸化系の活性、インスリンシグナル、エネルギー代謝関連酵素ならびにその支配転写因子の発現量、細胞分裂速度、細胞分裂可能な回数、酸化ストレスならびに老化の指標を比較する。これらを通して同回路修飾を標的にした創薬や遺伝子治療による代謝疾患の抜本的治療法開発など、本研究を端緒にした多くの可能性が開けるはずである。
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