本研究では、膵組織特異的転写因子PDX-1、我々が明らかとしたインスリン遺伝子に結合するmethylation-sensitiveな転写因子であるGABP、およびエピジェネテックな遺伝子の転写調節の組み合わせにより非β細胞(膵内分泌前駆細胞、体細胞)から膵β細胞へ分化誘導し、インスリン遺伝子を発現させて、再生医療に応用することを目的とするものである。 非β細胞としてHepG2細胞、膵β細胞としてRIN細胞のインスリン遺伝子プロモーターのCpG siteのmethylation rateを検討したところ、HepG2細胞ではメチル化、RIN細胞では脱メチル化傾向を示した。AR42J細胞、BRL細胞、HepG2細胞にhistonedeacetylase inhibitor(Depsipeptide)あるいはDNA脱メチル化剤である5-Azacytidineを投与し、インスリン遺伝子の発現を誘導できるか検討したが、RT-PCR法、インスリン抗体免疫染色法では発現の確認はできなかった。PDX-1遺伝子をstable transfectionしたHepG2細胞、BRL細胞においては、Depsipeptideと5-Azacytidineの両者の投与によりRT-PCR法によりインスリン遺伝子の発現をわずかに認めたが、ノーザン解析およびインスリン抗体免疫染色法では発現の確認はできなかった。上記結果より、膵β細胞の分化にエピジェネティクスの関与する可能性はあるが、PDX-1、および脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤の組み合わせにより培養非β細胞(HepG2細胞、BRL細胞)にインスリン遺伝子を発現することは、困難であると考えられた。一方、我々が既に明らかとしたように転写因子GABPはヒトインスリンプロモーターに結合するが、今回、抗GABPα抗体、抗GABPβ抗体による免疫組織染色によりGABPは膵臓においては、ランゲルハンス島にのみ存在することが明らかとなった。これはGABPが膵臓においてインスリン遺伝子の転写促進に関与することを支持する結果と思われる。今後膵臓の発生過程でのインスリン遺伝子などランゲルハンス島特異遺伝子のエピジェネティクスを検討することは興味深いと思われる。
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