研究概要 |
IGFおよびIGF結合蛋白の病態生理的意義に関して本年度は以下に示す知見を得た。 1)先端巨大症の耐糖能異常に及ぼすIGF-Iのインスリン様作用に関する検討 先端巨大症では高率に耐糖能異常を認め,これはGH分泌過剰によるインスリン抵抗性がその一因と考えられている。一方,本症に重症の糖尿病を合併すると血中IGF-Iは高値を示さないことがあり,インスリン様作用を有するIGF-Iが本症の糖代謝に関与するかは明らかではない。そこで耐糖能異常と血中IGF-I高値との関係について検討した。【対象および方法】1999年より当科に入院した活動性先端巨大症84例(男/女:31/53)を対象とした。耐糖能,血中IGF-I(実測値およびSDS),GH, IRI, HOMA-R, HOMA-βについて検討した。【結果】耐糖能に関しては,糖尿病(DM),耐糖能異常(IGT),耐糖能正常(NGT)を各々32例(38%),28例(33%),24例(29%)に認めた。血中IGF-I値(SDS)はDM, IGT, NGT群で各々713.8±41.9(7.1±0.5),754.1±50.6(6.9±0.6),736.3±65.4ng/ml(6.1±0.6SD)であり,3群間で差を認めなかった。血中GH値は各々44.7±10.8,26.3±6.4,20.4±3.9μg/Lで,DM群ではNGT群に比べ有意に高値を示した。IGT, NGT群では血中IGF-IとGHには正の相関(Rs=0.5,0.42)を認めたが,DM群では認めなかった。【考案】血中IGF-Iは耐糖能の程度により差を認めず,本症での耐糖能異常に対してIGF-Iのインスリン様作用としての関与は少なく,GHの過剰により規定される因子が大と考えられた。 2)ラット甲状腺細胞におけるIGF-IによるIGF-I受容体の調節 IGF-Iは細胞の分化・増殖を促進し,apoptosisを抑制することから,腫瘍におけるIGF-Iおよびその受容体(type1 IGF受容体;IGF1R)の関与が注目されている。甲状腺においても腫瘍発生または腫瘍発育にIGF1Rが促進的に作用している可能性が示唆されているが,甲状腺におけるIGF1R発現の調節については不明である。そこで,ラット甲状腺株化細胞(FRTL-5)を用いてin vitroでのIGF-I添加によるIGF1R遺伝子発現をreal-time PCR法にて定量分析した。IGF1RのmRNA発現量は,IGF-Iの濃度,時間依存性に強く抑制された。IGF-I非存在下の細胞は,48時間後より生存率が低下し,RNA量が著明に減少した。以上より血中IGF-I濃度が甲状腺細胞におけるIGF1R量を調節し,甲状腺細胞の増殖および細胞死を調節している可能性が示唆された。
|