研究概要 |
IGFおよびIGF結合蛋白の病態生理的意義に関して本年度は以下に示す知見を得た。 (1)低血糖を呈するIGF-H産生膵外腫瘍の臨床像の検討 低血糖を呈する膵外腫瘍(non-islet cell tumor hypoglycemia : MCTH)の中には腫瘍がIGF-llを産生分泌し,これが低血糖の発症に関与すると考えられる症例がある。このIGF-H産生NICTHでは血中に多量の大分子量IGF-Hが検出される。今回,このIGF-H産生NICTHの78例の臨床像にっいて論文としてまとめた(Fukuda I et al.Growth HormIGF Res 16:211-216,2006)。原因腫瘍として肝細胞癌(24例),胃癌(10例),中皮腫(6例)が多く,腫瘍径10cm以上の腫瘍が72%であった。半数の症例は低血糖発作を初発症状として腫瘍が発見されたが,残り半数は腫瘍性疾患の治療経過中に低血糖症状が出現した。血中IGF-1値は全例で低値であるが,血中IGF-II値は必ずしも高値ではなかった。血糖/IRI比は検討されたすべての例で0.3未満であった。血中総蛋白は正常(平均6.6g/dl)であり,55%の症例で低K血症を認めた。インスリンの過分泌を伴わない低血糖症に遭遇した際,大きな膵外腫瘍を認め,血中IGF-1値が抑制されていればIGF-II産生NICTHである可能性が高い。一部の症例では低血糖に随伴して低K血症が認められる。その後も症例を追加して低血糖発症機構に関して検討を行っている。 (2)甲状腺乳頭癌組織の予後に及ぼすインスリン様成長因子レセプター発現の影響 IGF-1/IGF-1受容体(IGFlR)は腫瘍の分化増殖に関与している。分化癌である甲状腺乳頭癌(PTC)はIGFIRを発現し一般に予後良好であるが,予後不良のものも存在する。一方,甲状腺未分化癌ではIGFIRの発現減弱,IGFIR/インスリン受容体(IR)ヘテロ受容体発現が報告されている。本研究ではIGFlR発現がPTCの疾病予後に関与するかを探るべく,PTC組織標本をIGFIR免疫染色し,予後との関連を検討した。PTCの手術を行った症例中,死亡例(癌死)24例を予後不良群とし,それらと年齢,性別,腫瘍径が同等の死亡をきたしていないPTC24例を対照群とし,IGFIRの免疫組織染色を行った。予後不良群ではIGFIR陰性3例,弱陽性5例,中陽性8例,強陽性8例であり,対照群では陰性0例,弱陽性6例,中陽性6例,強陽性12例であった。IGFIRの免疫染色性には2群間に有意差を認めなかったが,IGFIR陰性症例は3例全例が予後不良群であった。また70歳未満と70歳以上に群分けすると,70歳以上では予後不良群でIGFIR発現量が有意に少なく,甲状腺未分化癌に類似したパターンであった。これらの結果はPTCにおけるIGFIRの発現が予後に関与する可能性を示唆した。
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