赤血球造血に関わる分化制御機構の詳細は未だ明らかとされていない。我々はヘムがこの制御機構の中心を担っていると考えた。そのアプローチとして、マウスES細胞からin vitiroで正常赤芽球とヘム欠損赤芽球を分化誘導し、両者の遺伝子発現プロファイルをcDNAアレイにより比較検討し、ヘム制御下にある赤血球特異的遺伝子群の同定を試みた。最初に、対象となった8737の遺伝子から、定量PCR法にてマウスの骨髄細胞において赤芽球系列特異的に発現を示した11遺伝子を抽出し、さらにこの11遺伝子のうちNorthern blot法及び定量PCR法により造血組織に強い発現を示した4遺伝子に絞り込んだ。この4遺伝子のいずれも細胞内ヘム濃度と発現量が相関を示したため最終的な候補遺伝子とした。4遺伝子は、既に報告のあるUCP2(uncoupling protein 2)、NuSAP(nucleolar spindle associated protein)、CNBP(cellular nucleic acid binding protein)と、未知の1遺伝子であった。未知の遺伝子は、in vitro acetyltransferase assayの結果より新規のヒストンアセチルトランスフェラーゼである可能性が考えられ、HE-AT1(Heme-regulated Erythroid-specific Acetyl Transferase 1)と名づけた。このうち、NuSAPはごく最近細胞分裂の制御因子と報告された分子であるが、実際、貧血マウスの赤芽球や、トランスフェリン受容体陽性赤芽球において高い発現が認められたことから、赤血球増殖に関与していると考えられた。以上の結果より、ヘムは赤血球造血において多岐にわたる遺伝子群の発現を制御していると考えられた。
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