造血幹細胞の生存と増殖、細胞死の制御機構を解明し、その破綻と白血病発症機構との関係を探ることが本研究の目的である。今年度は、造血幹細胞の生存と増殖に必須な転写因子GATA-2について幾つかの報告を行った。第一に、遺伝子相同組み換え法により本因子の翻訳開始点に緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子を挿入したマウスを作製し、連続した骨髄移植実験によって、骨髄中の造血幹細胞がGFPの蛍光とSca1抗原の発現により同定できることを示した。この細胞の生体内動態をビデオ撮影し、骨芽細胞との接触により生存と細胞周期の制御のシグナルを得ている可能性を示した。さらに、普段は休止期にある造血幹細胞が5-FU投与後に増殖する様子を明らかにした。第二に、GFPをレポーターとしたトランスジェニックマウス法により、個体レベルの転写制御領域の解析を行い、胎児期の造血幹細胞・前駆細胞におけるGATA-2の発現に必須の特定の領域の複数のGATA因子結合配列を同定した。この配列にはGATA-2自身が結合しポジティブフィードバック因子として働くことが予想された。第三にGATA-2の半減期を検討し、類似の転写因子であるGATA-1のそれに比して格段に短いことを示し、その分解活性に関わる構造の検討を行った。また、この報告の中で、紫外線による細胞死誘導刺激は、蛋白質分解系を介して、数分以内に白血病細胞株のGATA-2発現を消失させることを示した。本因子はがん抑制と細胞死制御に関わる因子であるp53と相反して働くことが遺伝子ノックアウトマウスの解析からも示唆されており、また、本因子が自身の遺伝子の正の転写制御因子である可能性から、本因子の発現制御と、p53経路と本因子のクロストークの鍵を蛋白質分解系が握っていることが予想された。
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