研究概要 |
【目的】造血幹細胞から巨核球が分化・成熟する過程には、系統特異的サイトカインであるthrombopoietin(TPO)が重要な役割を果たすが、後期の巨核球造血および血小板産生はTPO非依存性に進むことが知られている。しかしながら、この間の巨核球成熟、血小板産生がどのように制御されているかは、今日まで明らかにされていない。本研究はこの過程に関与する巨核球細胞内情報伝達系、接着因子などを明らかにすることを目的とした。【方法】p38MAPK, caspase-3および接着因子CD226(DNAM-1)の関与を、特異的阻害剤、特異抗体、遺伝子改変マウスを用いて検討した。巨核球成熟能を、核ploidyの変化、巨核球からのproplatelet formation、超微形態、および抗ガン剤投与マウスにおける血小板数の回復などで評価した。【結果】Bim KO, vav-Bcl-2 TGマウスを用いた検討などより、(1)巨核球系細胞におけるapoptosisはantiapoptotic proteinであるBc1-xLとproapoptotic proteinであるBimのバランスによって制御されていること、(2)caspase-3の活性化は従来言われているような血小板産生には関与せず、幹細胞から巨核球へと分化する段階で分化を制御すること、(3)Bc1-xLの持続的発現が巨核球成熟に重要であることを明らかにした。またp38MAPKに関しては、inhibitorを用いた実験ではあるが、巨核球からの血小板産生に重要な役割を果たすことを見いだした。さらに、CD226に対する特異抗体を用いた実験より、巨核球と血管内皮細胞の細胞間相互作用に巨核球表面のC226が関与し、CD226からのシグナルが入っている状態ではproplatelet formationが阻害されていることを見いだした。【考察】これらの結果より、caspase-3活性化、Bc1-xLの発現は巨核球の初期成熟・分化に重要であり、TPOが関与しなくなった後期の巨核球造血を、接着因子CD226、p38MAPKが制御している可能性が示唆された。現在、p38MAPK、CD226それぞれのKOマウスを導入済みであり、今後はこのような遺伝子改変動物を用いた検討を進める予定である。
|