研究概要 |
エリスロポエチン(Epo)遺伝子発現はhypoxia inducible factor-1(HIF-1)による正の促進とGATAによる負の抑制のバランスにより調節されている。従って、GATA阻害とHIF-1促進の両作用を持つ薬剤が新規Epo促進薬として使用されることが期待される。慢性貧血はinterleukin-1β(IL-1β)およびtumor necrosis factor-α(TNF-α)が増加し、GATA結合活性を増加させることによりEpo産生が抑制される機序が解明された。そこで前回我々はGATA特異的阻害薬(K-7174)の腹腔内投与により慢性貧血のモデルマウスに対する有効性を報告した(FASEB J 17:1742;2003)。さらにGATA結合活性阻害作用かつHIF-1結合活性亢進作用を持つK-11706を見い出しこれを経口投与することで慢性貧血のモデルマウスに有効であることを確認した。K-11706をHep3B細胞に添加することでGATA結合活性を抑制し、HIF-1結合活性を亢進させた。IL-1β,TNF-αによりGATA結合活性は亢進したが、K-11706添加により亢進したGATA結合活性は低下した。またIL-1β,TNF-αによりHIF-1結合活性は亢進したが、K-11706添加によりHIF-1結合活性はさらに亢進した。IL-1β,TNF-αによりHep3B細胞のEpo蛋白産生は抑制された。しかし、K-11706添加によりEpo蛋白産生は回復した。IL-1β,TNF-αによりEpo promoter・enhancer活性を抑制した。しかし、この系にK-11706を添加するとEpo promoter・enhancer活性を亢進させた。ICRマウスにIL-1β,TNF-αを腹腔内投与することにより、Epo産生を抑制し、CFU-E、網状赤血球数、Hbを低下させた。しかしこの系に同化合物を経口投与するとEpo産生抑制が解除され、上記パラメーターの改善が認められた。以上よりGATA結合活性阻害かつHIF-1結合活性亢進作用を有するK-11706の経口投与での慢性貧血改善の可能性が示唆された。 固形腫瘍は、中心部が低酸素になるため、低酸素に反応するhypoxia inducible factor-1(HIF-1)が増加することでHIF-1結合部位(HRE)を5'プロモーターに持つvascular endothelial growth factor(VEGF)が増加し、腫瘍血管が増生する。またこのHREを3'エンハンサーに持つerythropoietin(Epo)も低酸素応答遺伝子である。HIF-1α鎖は大気中では402番目と564番目プロリンが、2-oxoglutarate(2-OX)を基質として水酸化されるために、von hippel lindau(VHL)と結合してプロテアゾームでユビキチン化され分解される。しかし低酸素下ではプロリンは水酸化されないため、α鎖は分解されずに、β鎖と結合して核内へ移行し、HREと結合してVEGFあるいはEpo遺伝子発現が亢進する。そこで低酸素下でも2-OXを投与することでHIF-1α鎖を分解してVEGFあるいはEpo産生を抑制させることが可能かどうかを、低酸素でVEGFおよびEpoを産生するHep3B細胞を用いて解析した。2-OXのHep3B細胞に対する細胞毒性をMTT assayを用いて検討した結果、25mMまでの濃度では毒性は認められなかった。低酸素での細胞の産生するVEGFおよびEpo蛋白におよぼす2-OXの効果をELISA法で測定した。この結果、2-OXの用量依存性にVEGFおよびEpo産生が抑制された。また、VEGFプロモーター・Epoエンハンサー活性をルシフェラーゼを用いて測定した所、2-OXの用量依存性にVEGFプロモーター活性およびEpoエンハンサー活性が抑制された。しかし、VEGFプロモーターのHRE変異体では、2-OXによる抑制は認められなかった。細胞の抽出物を用いたゲル・シフト法により、2-OXの用量依存性にHIF-1結合活性が抑制された。またwestern blot法により、細胞の産生するHIF-1蛋白も2-OXの用量依存性に抑制された。さらに、血管新生キットを用い、VEGF添加あるいは低酸素による血管形成を2-OXが用量依存性に抑制した。以上の結果より、HIF-1α鎖のプロリン水酸化の基質となる2-OXは、VEGFプロモーター、およびEpoエンハンサーを介して、VEGFおよびEpo蛋白産生を用量依存性に抑制することを認めた。よって2-OXは新たなVEGF inhibitorであり、今後2-OX抗腫瘍効果が期待される。
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